May.06.2012 WEC スパ・フランコルシャンレースレポート

DOME

DOME

DOME

DOME

DOME

DOME

DOME

DOME

DOME

DOME

DOME

DOME

DOME

●プラクティス1 (5/3)
3月7日のシェークダウンテスト、4月のスペインで合計3日行ったテスト、その後、ブガッティで1日のテストを経て、08年の6月にルマン本戦に参戦して以降、4年ぶりの実戦復帰となるWEC第2戦SPAを迎えました。これまでのテストは、SPA前にブガッティで実施したテスト以外は、単独のプライベートテストだったので、まさしく、4年ぶりに、AUDIやレベリオンといった他の車両との性能比較を行う機会となります。この4年間、エンジン規定や空力規定が大幅に変更となり、08年からのタイヤも進化しており、特にフロントタイヤの大型化への適応もあり、他車の進化も含め、08年にデビュー戦のルマンで走行した実戦データしか持っていないS102の発展型のS102.5にとっては、他車との位置関係を確かめながらの走行開始となりました。特に、ブランクがあることによって、新しいエンジン規定と進化したタイヤで、他車がどの程度のダウンフォースレベルで走行しているかが車両セットアップ上は気になるところです。ルマン仕様の開発に注力しているS102.5としては、SPA用のハイダウンフォース仕様は、アンダーパネルのアタッチメントを変更する程度の開発で臨むことになり、初日の2回のプラクティスでセットアップを進めました。1回目のプラクティスは、セバスチャン・ブルデーがセッションの大半を走行し、ニコラス・ミナシアンがセッションの最後で確認を行うことになりました。タイムは、ガソリン車トップのレベリオンから0.4秒遅れとなり、ここ数年ルマンシリーズに参戦し、熟成されているレベリオンに対して、まずまずのスタートでした。レギュレーション変更後も、パワー差がまだまだあるAUDI勢に対しては、2〜3秒の差がまだあります。

●プラクティス2 (5/3)
1回目の走行でブレーキバランスの不具合をドライバーが訴えたので、ブレーキのセッティングを変更し、2回目の走行に臨みました。SPAは、セクター1の最後がサーキットの一番高い部分にあり、そこからコーナリングしながら下っていくセクター2は、下りでのブレーキングを多用するので、ブレーキバランスの調整がシビアです。特に、今年から大きなフロントタイヤを使用しているS102.5は、フロントタイヤの容量アップに対応したブレーキバランスのセットアップを行っている途上なので、SPAでも引き続き行うことになりました。このセッションは、前回のセッションに走行したミナシアンから走行を開始し、ブレーキバランスの確認等、セットアップを詰めました。ブランクの4年の間に床下のスキッドの厚みが5mm増加し、車高セットアップも異なるために、リアダウンフォースの過渡特性(=ライドハイトや速度に対するタウンフォース量の変化)も見直りしており、このあたりのフィーリングにドライバーはまだ満足しておらず、特に下りながらの高速コーナーがあるSPAでは影響が顕著に表れました。セッション後半、ブルデーに代わってセットアップ作業を続け、ブレーキバランスの改善は確認できましたが、タイムを出せるタイミグでのコースコンディションとコースの渋滞により、前セッションからのタイムアップはできませんでしたが、レベリオン2台の一台には割り込める結果となりました。

●プラクティス3 (5/4)
1日目が終了後、走行データやセクタータイムを解析し、ダウンフォース増やしたほうがタイムアップを見込める結果となりました。最高速を記録するセクター1や高速で全開のコーナーで構成されるセクター3では、エンジンパワーで圧倒的に勝るAUDIに対しても遜色ないタイムであるのに対して、中速コーナーで構成されるセクター2で遅れをとっており、AUDIやレベリオンに対するタイム差は、セクター2で発生しているので、最終のプラクティスに向けたセットアップ変更としては、フロントアンダーパネルのアタッチメント変更とリアウィング角度変更+リアデッキガーニー高さ変更などによるダウンフォース増をトライすることとなりました。しかし、ミナシアンでピットアウトしたもののエンジンにミスファイアが発生し、修理のためにピットアウト・インを繰り返すことになり、ほとんどまともに走れないままプラクティス3は終了となってしまいました。
原因は、今年から追加となっているラウンチコントロールのスイッチがONになっており、ドライバーが誤って触れていたようですが、原因の究明にセッションの大半の時間を費やしてしまい、満足なセットアップの確認ができないまま予選に臨むことになりました。



●予選 (5/4)
予選で使ったタイヤと担当したドライバーでレースをスタートする規定があるために、予選で使うタイヤの選択には総合的な判断が必要です。セットアップは中途半端なままですが、今までのデータから最良と思われるセットアップで予選に臨みました。ここでびっくりさせられたのは、フルワークスのAUDIだけでなく、TOYOTAやHONDAのエンジンを搭載するレベリオンやSTRAKKAまでが、プラクティスより2秒近くタイムアップをしていることでした。予選での戦いが激化していることは情報としては把握していましたが、正直、これほどとは思っていませんでした。
この予選におけるパフォーマンスはメーカー系エンジンを使うチームのアドバンテージだと思われますが、こればかりは我々にはどうしようもなく、ルマンに向けてはJUDDと対策を相談することになるでしょう。
プラクティスの連続走行のタイムではそれほど大きな差は見られていないので、今後の車体の開発によって解決していくものと思われますが、常々、「コンストラクターとしてのレースは予選がすべてだ」と言い続けているチームオーナーの林社長も、「エンジンの出力差は我々にはどうしょうもないしなー」と少し途方に暮れている様子でした。

●ウォームアップ(5/5)
未明から降った雨によりWETでの走行となったため予選で感じたガソリンエンジンのメーカー系(TOYOTA・HONDA)とカスタマー(S102.5が使用するJUDD)の性能差が確認できる結果となりました。濡れた路面はエンジンパワー差を相対的に小さくする(全開率が低下し、エンジンパワーを発揮できなくなる)ため、S102.5はSPAに来てから最も良いポジションとなるAUDI4台と雨で有利になる軽いLMP2一台につづく6番手を記録し、レベリオンやSTRAKKAに対しては、2秒早いタイムを記録しました。これは、ある意味で車体性能をアピールした結果となりましたが、同時に、エンジン性能を含めたトータルの性能ではますますの改善が必要であることを痛感する結果となりました。

●レース(5/5)
コンディションは引き続きWETです。14:30にグリーンフラッグとなり、1000km/6時間というレースとなります。WETの序盤では、ブルデーのドライビングによりAUDI勢のベストタイムを上回る2分9秒台で走行するなど周囲を驚かせるパフォーマンスを披露しましたが、


路面が乾きはじめたためカットスリックへ交換しブルデーのまま走行を続け、路面が完全にドライになるまではガソリン勢ではトップのタイムで維持しつつ、9位スタートから5位までポジションを上げ、以降のレース展開に光明が見えてきました。


しかし、そんないけいけムードの中、突然、ブルデーが電気系のトラブルを訴えるようになり、ついに電源が断続的に落ちてエンジンが停止するような重篤なトラブルまで発生するようになってきました。
それでもブルデーは、何とか3時間13分の走行を終えミナシアンに交代、ミナシアンはドライタイヤでピットアウトしましたが、電装系の問題はますます悪化し一時はスローダウンして20秒ほどのロスを余儀なくされるほどの状態が続いていました。
ミナシアンは電気系トラブルに苦しみながらもどうにかドライブしつづけていましたが、給油のためにピットした際には、ついにエンジンが始動しなくなり、車両をガレージ内に戻しての修理を余儀なくされる事態となりました。
原因が特定されないまま電装系の部品を数点交換したところエンジンが始動したのでピットアウトし、ミナシアンはそこそこのペースで走行を再開しましたが、いずれにしても、これらのトラブルでロスした長い時間は取り戻すすべもなく、最終的には16位(LMP1クラス10位)でのゴールとなってしまいました。


AUDIとのエンジンパワー差は織り込み済みですが、のみならず、TOYOTA・HONDAといったメーカー系ガソリンエンジンとのエンジンパワー差も実感し、カスタマーエンジンしか選択肢のない我々にとっては、AUDIだけではなく、ガソリンエンジン車との戦いも視野に入れなくてはならない状況に、車体のコンストラクターとしては、やや隔靴掻痒の感も否めませんが、過去における童夢のルマンと比べ、この時期からテスト/実戦を実施している現状は、電気系のトラブル続出も含め、ルマンに向けての着々とした準備を実感し、期待が高まっています。
今回、クリアになった課題をルマンまでに克服することが、今年のルマンでの明暗を分けることになりますので、童夢の開発陣/ペスカロロチーム一丸となって、これからの1ヶ月をS102.5の開発に取り組んで行く所存でいます。

湯地浩志 著