●冷えなかったニューボディパッケージ 2001年最初のS101は、排気量4リットルのNAエンジンを搭載することを前提として開発が進められました。今年登場したS101.5は、S101の延長線上に存在するマシンです。ですから、最初と比べると、37.5%も排気量が大きい5.5リットルのジャドGV5.5 S2エンジンを搭載するにあたって、大幅に冷却能力を向上することが求められました。 しかし、冷却能力の向上だけを目的としてしまったら、ドラッグが増えて、エンジンが強力となっても、ドラッグが増える分を考慮すると、逆に遅くなってしまうかもしれません。そのため、S101.5を開発するにあたって、冷却能力を向上させるだけでなく、もちろん、より速く走ることを目的として、空力開発は行われました。
そうして開発されたボディパッケージを、今回のモンツァのレースで投入しました。しかし、残念ながら、このボディパッケージは、期待されたような大きな冷却能力を発揮できませんでした。 金曜日に走り始めると、直ぐに熱の問題が露呈しました。 直ちに対策を試みましたが、S101.5は徹底的につめた開発が施されているため、そう簡単に冷却能力を向上することは不可能です。 冷却能力の不足は、エンジンはもちろんですが、よりスターターモーターやジェネレーター等補機類に大きな影響を与えます。次々と対策を施しましたが、最後まで熱に悩まされることとなりました。 現在データの解析前であるため、正確な理由を判定することは出来ませんが、大きな手違いがあったことは間違いないでしょう。
日曜日の朝行われるウォームアップ走行の段階でも、熱の問題を解決する目処は立ちませんでした。取り敢えず、リアカウル上面の、金曜日までエキゾーストの排出口が設けられていた部分を、S101初期モデルのように、スリット付きのカバーと交換する一方、ジェネレーターを冷却するため、昨日夜中までかかって、エアインテイクを追加しました。 この状態でウォームアップ走行を走りましたが、残念ながら、2005年以降の空力パッケージの場合、この部分からは、ほとんど空気を吸い出すことは不可能であることを確認しただけでした。 ちなみに、上面排気エキゾーストを止めた理由は、113デシベルと言う音量制限にひっかりそうだったためで、熱ではありません。 完全に対策が後手後手に回っているようです。
●コーナーで速くストレートで遅い そうして決勝レースがスタートすることとなりました。 ヤン・ラマースが乗り組んだNo.14RfH童夢S101.5/Juddは、7番グリッドからスタートしました。昨日の予選で明かになったように、フロントローを独占したプジョーのディゼルエンジンカーは、我々を圧倒する700馬力以上の大パワーを爆発させて、1コーナーに突進して行きました。プジョーのディーゼルエンジンカーを除くと、総てが、せいぜい630馬力程度ですから、とても付いて行くことが出来ません。
ヤンが操るS101.5は、前をNo.12クラージュ、後ろをNo.17ペスカロロに囲まれて6位争いを展開しています。多くの方々が、ハイスピードコースのモンツァでは、ストレートスピードが速いS101.5が有利に決勝レースを進めることが可能と考えるかもしれません。しかし、今日のS101.5は、クラージュを抜くだけのストレートスピードがありません。
以前と比べるとペースが上がっているにも関わらず、新しいレギュレーションによって重心は高くなっています。そのため、よりクルマの姿勢変化が大きくなっています。 本来慎重にテストを繰り返して、巧妙なセッティングを見出すのですが、熱対策に追われてセットアップが遅れたこともあって、今回我々は間に合わせのセッティングを施しました。 モンツァを速く走るポイントは、レズモとパラボリカの2つの高速コーナーを速く走ることです。昨日行われた予選を見ても判るように、レズモとパラボリカだけでなく、ハイスピード複合コーナーのアスカリでもS101.5は速さを発揮しています。 不十分な開発状況で速さを求めた結果、我々は、従来よりも大きめのダウンフォースをS101.5に与えました。 大きなダウンフォース=大きなドラッグを発生します。しかも、充分な冷却能力を発揮出来なかったことでも判るように、今回持ち込んだボディパッケージそのもののドラッグが大きい可能性もあります。 現在データの解析前であるため、推測となりますが、風洞実験に使われるスケールモデルには、例えエンジンやラジエターが盛り込まれたとしても、実車と同じように、熱を発生する訳ではありません。そのため、風洞実験と実車の走行状況の差があることも考えられます。しかし、従来も同じ方法で開発していましたが、このような問題が提出されていません。慎重にデータを解析することが要求されています。
その結果、S101シリーズの特徴だった、速いストレートスピードは、モンツァでのS101.5には当てはまらないようです。 ヤンは果敢に攻めますが、クラージュを抜けないだけでなく、後ろからはペスカロロに迫られてきました。
●4位から脱落したS101.5 20周目、第1シケイン先でアクシデントが発生したため、21周〜25周にかけてセイフティカーがコースインしました。この際、次々とピットに入ったマシンが多かったため、セイフティカーはトップのプジョーの前に入ることが出来ずに、2台のプジョーが、まるまる1周得をする結果となってしまいました。 この混乱が治まって、レースが再開されると、やっとヤンのS101.5はクラージュを抜くことに成功しました。同じ頃、3位争いを行っていたNo.15シュロースローラとNo.13クラージュは、第1シケインで接触してしまい、2台共スピンしてしまいました。 こうして、S101.5は4位に進出することとなりました。
コースは非常に荒れており、タイヤかすを拾った結果、タイヤがスローパンクチャーしたような感覚をヤンは訴えました。30周目にピットインは行っているのですが、35周目再びピットインして、タイヤを履き替えました。取り外したタイヤを点検したところ、何も異常がありません。ヤンは、タイヤかすを取り払おうとして、しばしば、左右にハンドルを切りながら走行しています。このような状況の中、ヤンはGT2クラスのフェラーリと接触してしまいました。 そのまま走行して、49周目にピットインして、燃料補給とタイヤ交換を行うと共に、ドライバーをデビッド・ハートと交代しました。しかし、1周走っただけで、デビッドは操縦性の異常を訴えてピットに入ってきました。点検したところ、左フロントのナックルアームが破損していました。どうやら、ヤンがGT2クラスのフェラーリと接触した際、ナックルアームを破損していたようです。 直ぐにナックルアームを交換しましたが、これによって、RfH童夢S101.5が上位でフィニッシュする可能性はなくなりました。
78周目に燃料補給のため5回目のピットイン。107周目の6回目のピットインの際、燃料補給とタイヤ交換、そしてドライバーをヨルン・ブリークモーレンと交代しました。 ここで心配されていたトラブルが発生しました。 間に合わせの対策を行っただけで、根本的な熱対策は行っていません。ジェネレーターには冷却ダクトを設けましたが、スターターモーターには何も対策を施していません。そのため、加熱したスターターモーターは回ろうとしません。スターターモーターを水で冷やして、何とかエンジンを始動しましたが、最後の137周目のピットストップでも、スターターモーターは不調のままでした。 そうして、レースが終了しました。
100馬力近い差があるのですから、今年ガソリンエンジンを使って、ディーゼルエンジンカーに対抗するのは、諦めるべきでしょう。 しかし、充分な冷却能力を持たなかったことでも明かなように、大きな手違いがあることは認めなければなりません。
決勝レース結果 1 No.7 Team Peugeot Total Peugeot908HDI FAP 173laps 4時間59分20秒735 2 No.16 Pescarolo Sport Pescarolo S01/Judd 172laps 5時間0分9秒219 3 No.8 Team Peugeot Total Peugeot908HDI FAP 171laps 5時間0分29秒758 4 No.17 Pescarolo Sport Pescarolo S01/Judd 170laps 5時間0分9秒844 5 No.13 Courage Competition Courage LC70/AER 168laps 4時間59分57秒665 6 No.27 Horga Lola B05-40/Judd 165laps 4時間59分55秒786 7 No.18 Rollcantre Pescarolo S01/Judd 163laps 4時間59分57秒446 8 No.25 RML MG Lola EX264/AER 161laps 4時間59分59秒614 9 No.72 Alphand Aventures Corvette C6R 160laps 5時間0分22秒500 10 No.50 AstonMartin Larbre AstonMartin DBR9 5時間0分12秒512 *** 25 No.14 Racing for Holland 童夢S101.5/Judd 146laps 5時間0分分1秒457
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